イアン・ワトスン 『川の書』 創元SF文庫

本を読むということの一番の醍醐味は、現実の世界を忘れさせてくれることだと思う。剣と魔法のファンタジー、手に汗握るサスペンス、共感や後悔の感情を呼び覚ます恋愛小説、などそれぞれの個人にぴったりの形式を持っているはずだ。

僕にとってのその形式は、世界の構築と、その社会についての記述、だ。この手の物語でそんなにおもしろくないなあと感じた作品は無かったと思う。SFの長編は大部分がこのような要素を包含していると思うけど、まあそこに愛着がある、ということにしとこう。

それで本題の『川の書』である。まず舞台となる世界に魅力を感じる。世界を東西に分断する川。その中心にある、黒き流れという存在。異世界好きを蠱惑するには十分の条件だ。もちろん世界自体の魅力だけが読みどころではなかった。主人公ヤリーンの成長小説であり、主人公にとって未開の西岸を旅する冒険の要素も加わってくる。

その西岸の旅により、西岸の人間の話を聞くことになる。そうして聞かされた世界の認識が、従来自明の事と考えていた世界の認識とにずれが出てくる、こういうところがやっぱり読んでて楽しいなあと思う。実際の世界との比較も、考えていて楽しいもんだ。

まあ3部作の1作目なので評価するのはまだまだだけど、とても楽しく読めた。
というわけで次は『星の書』