コリイ・ドクトロワ 川副智子訳 『マジック・キングダムで落ちぶれて』 ハヤカワ文庫SF

 ある人にとって深刻な悩みは、他の人から見ると滑稽に移るものだ。その悩みが間違っているとなおさらだ。主人公のジュールズが取る行動というのは滑稽だ。真剣に間違ったことをしているからなおさらな印象を受ける。でも不快感はなかったなあと思う。それよりも物語にある社会、ビッチャン世界というところにはアイデンティティなんてあるのかなあと不思議に思った。もちろんあるだろうけれど、あまり重要視されてないんじゃないかと思う。それよりも場への帰属というか、集団(アドホクラシー)への帰属のほうが強いように読めた。ホーンテッド・マンションに対して不変を願ったジュールズを、それならまあ理解できるような気がする。
 こんな世界になったら、ウッフィーなんて考えずに勝手気ままに暮らしたいと思う。ここに描かれていない人たちが気になる。でもそうした生活も飽きるのかーと思うとやってられない、やっぱりそれなりな悪夢なんですね、自然に死ねないって言うのは。
 で、明日自分が死ぬとなるとどうするだろうか?
 昨日の反省を踏まえて今日を生きるというところでしょうか。