[感想]アイザック・アシモフ編 『世界SF大賞傑作選4』 講談社文庫 

 世の中には様々な賞があるが、海外SFの世界もその例外ではない。その中で双璧を成すのがヒューゴー賞ネビュラ賞である。ヒューゴー賞は世界SF大会参加のSFファン投票でされる。日本の星雲賞と同じですね。全然関係ないんだけど星雲というのがnebulaの訳で決まったものではないという事を最近知りました。世の中知らない事が多い。ここでは関係ないネビュラ賞はうっちゃっておきます。
 本アンソロジーは1969年の長中編、中篇、短編と、1970年の短編におけるヒューゴー賞受賞作が収められている。このアンソロジーシリーズ、アシモフの序文も載せている。序文では内容紹介は行っておらず、受賞作家について書いているのだが、これが抜群におもしろい。語り口がすばらしく、ウイットに富んでいるし、第2巻の「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」に寄せられた序文の最後の言葉にはある意味センス・オブ・ワンダーを感じるほどだ。昔のSF界はこぢんまりとしており、みんなそれぞれ顔見知りで楽しい雰囲気の中でSF大会というのは行われていたんだなあというのが良く伝わってくる。そんなだから第7巻の「死の鳥」の序文は少し悲しい。と湿ったところで個々の作品の感想に移ります。「世界の中心で愛を叫んだけもの」は再読なので書きません。
 ロバート・シルヴァーバーグ 「夜の翼」
 異星種族襲来後の地球が舞台になっているが、その雰囲気が良かった。ロウムの市における乞食が道端に溢れている、ごちゃごちゃした町並みには、皇帝の行いともども頽廃感がむせ返るほどただよっている。それがラストの絵の美しさを際だたせていますね。地名はもうすこしひねてほしかった。
 ポール・アンダースン 「肉の分かちあい」
 なぜ殺されたかを追っていくミステリ色の強い作品と思いきや、そこは意外とあっさり解かれて拍子抜け。それよりは復讐を行うかどうかの心の揺れに力点が置かれていたように思う。おもしろかったけどいまいち突き抜けない作品だなあと感じました。
 サミュエル・R・ディレイニー 「時は準宝石の螺旋のように」
 ディレイニーの作品を読んでいて悲しいのは、完全には理解できていない事ですね。別におもしろくない作品なら読まなかったことにしてスルーできてしまうからいいけれど、おもしろいんですよね。作品の本質をちょろっと覗き見している程度かもしれないけれど、なにか光り輝くものが垣間見えて引きつけられる。
 この作品も、表面読んで楽しいんだけれど、それだけで油断してならないのは『ノヴァ』を読んできての経験からだ。ラスト間近に再度出てきたベローナという単語が気になりますね。やっぱり円環、というより螺旋形になっている作品なんだろうなあ。