グレッグ・イーガン「万物理論」創元SF文庫

いつものごとく、きちんと理解しているのか怪しいのだが(むしろ理解していないとはっきり断言しても良いのだろうが)、それでも楽しく読めるものは読めるのだ。
とにかく色々なアイデアがぶちこめられている。題名にもなっている万物理論(略してTOE)はもちろんとして、第1部で語られる、まるっきり倫理観無視のバイオテクノロジー(フランケンサイエンスなんて言及も)、国際理論物理学会が開かれるステートレスの政治的背景、ジェンダー論。その各々がいつものイーガンの書き方で、徹底的に説明されている。こりゃ楽しめないわけが無い。
そんななかで気になったのはカルト集団について。人は信じたいものを信じるのだ。それが真実である事以外の理由、自分の信条に合致しないからという理由でも。もちろん自分の信じている事を間違いだからといって簡単に捨て去る事は難しいとは思うのだが、事実を歪曲し、自分の脳内で都合の良い事柄を恣意的に掛け合わせ、醜悪なキメラに成し得るのは決して正しい行動ではないという本文からの主張は、僕にもはっきりと同意できる。人間は個々で信じるものを信じれば良いと思う。他人にそれを非難し、糾弾する権利など無い。
後いくつか気になった点を。特にステートレスの人々との会話でみられたが、あんまり重要じゃないかなーと思っていた文が後半引用されていたりするので少し焦った。まあ本筋には関係無いんだけど、それでも構成がしっかりしてるんだろうなあと思う。