山岸真編「90年代SF傑作選・下」ハヤカワSF文庫

「マックたち」テリー・ビッスン
重く、色々と言いたくなるような話を書いているけど、インタビュウの端々に見られるユ−モアが良い味を出していると思った。
「ホームズ、最後の事件再び」ロバート・J・ソウヤー
ホームズは読んだ事無いんでよく分からなかったけど、問題の所在を人間側に置くというのがおもしろかった。
「理解」テッド・チャン
知能の増大ぶりと、コンタクトをとった相手がまず友人、次に医師や心理学者などの専門化、そしてCIAなどの政府組織と、段階的に力や影響力が増している事が密接にリンクするように書かれていてわかりやすい。その増大ぶりも中途半端に書くのでなく、とことん書いているところが良いなと思う。この人は徹底的に「どこまでも」を書くなあと感じる。
「誕生日」エスター・M・フリーズナー
どこに作者は一番怒りを感じているのかなあ。堕胎自体なのか、自分の都合のために堕胎を行うところなのかなあ。多分後者だろうと言う気がするけど。また女性に対する差別にも言及されていたし、男の方にペナルティがあるかないかよくわからないところがまた問題なのか?もっともっと突っ込んで書けるような気もする。
「フローティング・ドッグス」イアン・マクドナルド
使役者の都合で兵器になった動物の悲しい話、なんだけど動物が動物性を取り戻そうとしたように、戦争の時に人間も人間性を取り戻そうという反戦の話なのかなあと勝手に解釈して楽しんだ。
「標準ロウソク」ジャック・マクデヴィット
このアンソロジーは重い話が多かったので、ほのぼの感が溢れているこの話は良い所に配置されていると思う。ノスタルジーを強く感じさせてくれた、少し悲しいけれど、温かい話だった。
ジェイムズ・アラン・ガードナ「人間の血液に蠢く蛇―その実在に関する三つの聴聞会」
宗教というのがいかにもろいものに立脚していて、だけれどもそれを信じる人間の信念は偏執的に強固だというのが、奇想を元に展開して行くところがおもしろかった。脇道から攻めているから面白い。
「ルミナス」グレッグ・イーガン
さすがにわからなさすぎる。何がどうなるのかと考えながらページをめくっていたらなんかよくわからないまま終わった感じだ。非常に悔しい。
「棺」ロバート・リード
主人公とコンピュータの関係の変化がおもしろかった。真の旅に出たら人間変わるという事か。
また運命の激変を、悠久の時間をかけて処理しているのが心に響いた。
「ダンシング・オン・エア」ナンシー・クレス
ナノテクによって変わった面と、多分永久に不変だろう家族関係(特に母と娘)とが同時進行で描かれているのがおもしろかった。