SFマガジンベスト①「冷たい方程式」ハヤカワ文庫SF

接触汚染」キャサリン・マクレイン
異星でのバイオ・ホラーSF。物語の本筋は、異星の植民団が罹患した風土病「溶解病」の原因を探る、という事だ。けれども重要なテーマは容姿がアイデンティティに与える影響だ。真っ先に思い出したのはテッド・チャンのカーリーだ。チャンは日常の中でカーリーを描写していたけど、マクレインは非日常的な、異星や風土病を用いて描写しているところが、なんというか、感慨深い。
「大いなる祖先」F・L・ウォーレス
冒頭でいきなりリボン人ときたので少し度胆をぬかされた。内容はタイトルどおりの内容だが、結末はうならされた。こういう読後感は悪くないなあ。ちっぽけな人類を、そしてちっぽけな個人をあらためて思い知らされる無常感。
「過去へ来た男」ポール・アンダースン
過去へ戻る事はおおむね願望充足だと思う。そんな事は幻想だと思い知らせてくれたのがこの作品。陸軍の技師である主人公は、大砲などの知識を披露するが、何も実現する事はできず、当時の大人であれば当然備わっている技術を何も取得できていない。皮肉な事だと思うが、一番は主人公にしゃべらせた、「ぼくはこの拳だけで闘いたかったんだが」だろう。現代人の空虚さがにじみ出ている、とまで言うと言い過ぎか。この短編集で一番好きな作品。
「祈り」アルフレッド・ベスター
ベスターの短編集で読んだので割愛。
「操作規則」ロバート・シェクリイ
フーンという、一番悪い感想しか抱けなかった。肌に合わなかったかな。
「冷たい方程式」トム・ゴドウィン
後半は良かったと思う。船内にいる二人が抱く事になった、規則を規則として完全には割り切れない葛藤感は、確かに胸に来るものがあったと思う。でもそれに至る前半があまり乗れなかった。マリリンを馬鹿にしか思えなかった。もちろんここはある程度馬鹿に描かなければならないという事はわかるのだけど、それでもなあと思ってしまう。また、船の人間が若い娘だからやさしくしているんじゃないかと疑ってしまう。若い男ならどうしたんだろうと思ってしまった。
「信念」アイザック・アシモフ
階段の上から下まで、ワイヤーに吊るされたように大の字で滑り降りてくる、その光景を思い浮かべたら笑ってしまう。後半の論理展開もフムフムとうなずくのだが、全体に漂っている滑稽感が大好きだ。