新城カズマ 『サマー/タイム/トラベラー2』 ハヤカワ文庫JA

1巻の時はあまり楽しさを感じなかった。理由は何の関係もないように挿入されるただの衒学趣味としか思えない話。例えば、地域通貨の話であるとか。突然触れられたかと思うと、何事も無かったようにその話題から過ぎ去っていった。タイムトラベル小説を巡るくだりも、読んでいて楽しかったけれども、物語という枠組みのもとで楽しんでいたのではないように思う。まあ要するに、全体的になんだかなあという空気が漂っているように感じていたわけだ。
 しかし2巻の、93ページから111ページを読んだ後に、自分の浅薄さをかみ締める事になったのである。中学校の数学の時間に図形の問題で悩んでいる時に、1本の補助線を引くだけで突然問題の答えがわかった、という事を思い出した。個々の話は独立し、互いに干渉しないローカルなものとなっているが、もう1つ下の層に全体性が確保されている。まあ要するに、全体的にさすがだなあという空気が漂っているように感じたわけだ。
 青春小説の部分でも秀逸だったように思う。どんよりと主人公たちを包んでいる、閉ざされた未来からの、頭が良いからこその逃避、つまり可能性の保持。そこからの、それぞれの方法での脱却。上手く書けているなあ。しかしまあこの人たちとは友達になれませんね。
 最後に、1巻と2巻の表紙の対比がまた良いなあと思った。下向きと上向き、閉ざされた本棚と開かれた扉、昼下がりと早朝。
そういえば帯にはこう書いている。「次世代作家のリアル・フィクション

追記8/3 サマー/タイム/トラベラー/1の小説の書き出しって「ノーストリリア」を意識してるのかなあ?猫の名前にク・メルってばっちりあったし。だからどうということでもないが。