バリントン・ベイリー 大森望訳 『時間衝突』 創元推理文庫

のっけから仕事で恐縮だが、僕は島根県松江市にある島根県松江市にある島根政治経済大学で、考古学を専攻している。そこで、有名な貝塚と名前が良く似ていてまぎらわしく、よくネタにされる貝塚で発掘を行っているのです。
 で「時間衝突」である。のっけから撮影された写真の比較によって遺跡が300年前より新しくなっている、という謎が提起される。そんなことあるかいと思うけど、ぐいぐい読まされてしまうところがベイリーの真骨頂。だってどうなのか気になってしょうがないじゃない。そのままがんがん読んで行くのだけれど、そのほかにも大ネタ小ネタがざっくざく。1つのアイデアを核にして話が進んでいく作品は多くあるだろうけれど、大量のアイデアに翻弄され押し流されて、読み手のほうが転がされていく作品はそうそうないような気がするけれど、いかがだろうか。
 その多くのネタの中でも一番のお気に入りは、地球を支配しているタイタンと、未来に存在している人種との関係。この関係は、アフガニスタンイラクで起きていることの投影として読むこともできるだろう。時間レベルや信条がまったく異なる文明同士が相互に理解することの困難さを描き、最終的に相互理解が実現しないという事を信じているようだ。
 その鍵を握るのが、お互いの母星である、地球への愛着。自分たちの血と肉の源である地球を見捨てる事ができない。ここには、イギリスに生まれ、生涯イギリスのために尽くしたあの哲学者の影が落ちている、という見方は穿ちすぎだろうか。
 時間理論に関しては難解な部分もあり、十全に理解できたとはいかなかった。だけど、とにかく読んでいて楽しい、ささいな事なんて気にならなくなってしまう。アイデアパワー全開だった。SFを読んできてほんとうによかった。