マイケル・マーシャル・スミス 嶋田洋一訳 『ワン・オヴ・アス』 ソニーマガジンズ

 2006年が始まって10日経ちましたが、僕の2006年ベストはもう決まりました。『ワン・オヴ・アス』です。他にとてもおもしろいのが出てくる可能性もありますが、その場合も別枠で1位に輝く事は間違いありません。
 ベストといっても、話自体でそうなったわけではありません。物語としてはなかなかおもしろいなあといったところです。絶賛するほどのものではないように思います。個人的には、プロローグを読んでまさかと思ったことがその通りにならなくて良かったです。あんまり大差はありませんでしたが、まあよしとしましょう。
 ベストにする理由は2点あります。1つはハップ・トムスンというキャラクターの魅力。
彼がバーにやってきて、バーテンダーに注文をした時のくだり。

「そこにチップを書き込む欄があります」バーテンダーがわざわざ教えてくれた。
 「なるほど、あるな」おれはその欄に横線を引いた。「警告をありがとう」相手は受領証をひったくると、もっといい客を捜しにいってしまった。

 少しわかりづらいですが、このように様々な人間や機械と面白い掛け合いを読ませてくれます。また、ホテルの朝食であるクロワッサンに毒づいたり、女に行うマッサージについて語ったりと、少し変な人間なのですが、そこが良かったりもします。もちろん、相棒のデックともども、決めるところは決めてくれます。他にも脇を固める女性陣もそれぞれ個性的で、呼んでいて飽きることはありませんでした。
 2つ目は、なかなか見られないシュールな光景を描いている点です。こればっかりは読んでもらうしかないのですが、NHK教育にでてきそうな光景だなあと感じました。
 すべての人にはおすすめすることはできないんですけど、肩肘張らない変な小説を読みたいという人にはぴったりの作品だと思います。