ジョナサン・レセム 浅倉久志訳 『銃、ときどき音楽』 早川書房

家電の次は動物だと思い、軽い気持ちで読み出したけれど、少し思っていたのとは違いました。
 舞台となるのは、〈カルマ〉というポイントによって管理されている近未来のサンフランシスコ。このポイントが無くなってしまうと冷凍処置されることになってしまう。検問官(警察に相当)がこのポイントの減点を行っており、質問が行えるなど、多大な権限が与えられている。途中、検問の描写がありますが、かなり異常な事をさらっと書いていてますます異常さが際立っています。また、知能を引き上げる進化療法により、動物たちが人間社会に混じって生活を行っており、その技術を応用し、体格は幼児のまま、知能は成人といったベイビーヘッドという存在も出現している。作中に出てくる動物たちはみんな個性的で、特性を受け継いだ憎いカンガルーやかわいい子猫が登場します。
 このようなあんまり到達したくない社会の中で、民間検問士(探偵に相当)であるメトカーフは最終的にある事件の解決をする事になります。しかしそこに達成感であるとか、勧善懲悪の爽快感はありません。残念ながらそれで世の中の状況に変化をもたらすわけではないのです。管理社会が緩和されるわけではなく、事件の発生から解決までの間にむしろ悪くなる一方です。メトカーフが前向きなのが救いではありますが、読後感は重く、『暗闇のスキャナー』を連想しました。
 この作品を読む時は、motor aceのアルバム「shoot this」を聞くのをおすすめします。なぜかはジャケットを見ればわかります。