[感想]ノーマン・スピンラッド 荒俣宏訳 『鉄の夢』 ハヤカワ文庫SF

 最近読む本が1960年代後半から70年代前半に集中している。この時期の本を集中して読もうとしているわけではなく、読み終わった後に初出を調べていると偶然にそうなっているのだ。
 『鉄の夢』も1972年に書かれた作品なのだが、この作品はおもしろくなかった。本の構成として、1954年度ヒューゴー賞受賞作『鉤十字の帝王』全文と、第2版へのあとがきをニューヨーク大学教授ホーマー・フィップルが寄せている。
 この本の9割を『鉤十字の帝王』が占めているのだけれど、これがおもしろくない。構成上、おもしろくなく、偏執的に書かなければならないのはわかるのだけれど、こう猪突猛進に書かれるとちょっと耐えられませんね。別にこの本文は必要なく、ヒトラーがどういう人物なのか大体の事を頭に入れておけば別に読まなくて良いんじゃないかとも思える。俗悪スペースオペラのパロディとしてかかれているのだろうけれど、辟易という言葉がぴったり。
 あとがきに入っては切れ味抜群で、ドイツ語で書いた云々などよーそんな事言うなあと思うぐらいだし、現実の歴史(フィップルのではなく)に対しても痛烈にパンチを浴びせていて、なかなかおもしろいんだけれどなあ。最後の文なんてうまく現実を揺らがせている。でもフィクションの部分で魅力がないと、構成的な部分での妙というのは弱くなってしまうんじゃないかと思う。もうちょっと何とかして欲しかった。