チャールズ・ストロス 金子浩訳 『シンギュラリティ・スカイ』 ハヤカワ文庫SF

 SFマガジン2005年12月号はニュー・スペースオペラ特集であったが、その解説の中で「ニュー」というのは、シンギュラリティ以降の世界を扱ったものと筆者は答えてることにしているようだ。じゃあシンギュラリティとはなんだろうと『シンギュラリティ・スカイ』の解説を読んでみると、「科学技術の幾何級数的進歩によって現在からは理解も予測もできない段階へと世界が到達する時点を指す」というものらしい。現在からは理解も予測もつかないことを、ドン・キホーテ的な蛮勇をふるって理解し予測するのがSFの魅力のひとつだと思うので、読む前はとても期待していたのだがなあ。
 冒頭出てくるコルヌコピアマシンという存在が気になるのですよ。なんでもできる万能マシンの出現を承認するためにシンギュラリティという概念が使われているように感じてしまったので、どうにも乗りきれなかった。そんなの割り切ればいいと思うんだけど、気になってしょうがなくなってしまった。しかしこのマシンからスターオーシャン3の序盤で不時着した惑星の文明水準に合わせて剣をつくりだした場面を連想したのはぼくだけでしょうか。
 まあそういうことは置いておくことにして、娯楽を求めて宇宙をさまようサーカス団の団長フェスティバル、それに寄食しているクリティックたちは異様でおもしろい。とくにクリティックは、〈観察する女ファースト〉、〈戦略のシスターセブンス〉といった名前がついていてすてき。全員がそろって登場する時は各々ポーズ付きで決めてくれるに違いない。
 ところどころ不満はあるけれど、ぜんたいとしては楽しめた、というのが感想。もっとよくわからないユーモアがあってもいいかなと思う。次作も訳されるのは決定みたいなので、気長に待つことにしよう。あと≪アッチェレランド≫シリーズも訳されるといいな。