『ドリーム・マシン』 クリストファー・プリースト 中村保男訳 創元SF文庫

ドリーム・マシン (創元SF文庫)

ドリーム・マシン (創元SF文庫)

今周りで起こっている事が夢か現実かなんてことは哲学的にはおもしろい問いであるかもしれないけれど、平々凡々な日常を生きている人間であれば頻繁には考えないだろう。もし考える瞬間があるとすれば天にも昇るような気持ちになれる出来事があるか、逆に涙が出るほど情けなくなることがあるかどちらかだと思う。それも束の間かもしれないけど。
 ジューリア・ストレットンは150年後の未来へ意識を飛ばし、共に実験に参加している他の38人の無意識と共に牧歌的な世界を創り出している。その一人に欠員が出たため新たに投射のメンバーになったのは彼女と昔同棲していたポール・メイソンだった、というのがあらすじ。
 このポールが嫌な性格をしていて、罵倒し、弱点をあげつらうことによって相手を自分に依存させようとする粘着質な人間で、辟易閉口。さてこの男の闖入による世界の変化が見所だと思う。世界の変化と共に社会体制も変化してしまい、事態が錯綜して夢か現実かわからなくなってしまう。この辺は展開のめまぐるしさも『ユービック』だけれど筆致はやっぱり違う。迫真的な心情を描くのではなくもう少し客観的に描いているからかな。
 楽しいことがあればこれは夢ではないかと疑ってしまうことがあるけれど、愛する2人ならば夢だろうと関係ないんだろう。そもそも愛する二人の考えるユートピアっていうのは隔離された2人だけの世界ではなかろうか。誰にも邪魔することはできない。