『ブラッド・ミュージック』 グレッグ・ベア 小川隆訳 ハヤカワ文庫SF

ブラッド・ミュージック  (ハヤカワ文庫SF)

ブラッド・ミュージック (ハヤカワ文庫SF)

 まずあらすじ。研究所に勤めるヴァージル・ウラムはバイオロジックスという知性を持った細胞を創造するが、規制されている分野に手をつけてしまい、研究所側から破棄を命じられる。研究の成果を惜しむ気持ちから、知性を持ったリンパ球を体内に投与したところ、視力が戻るなど身体的な変化が現れる。しかしそれが世界的な変化をもたらす災厄の前触れになるのは知る由もなかった。
 186ページまでは文句なしの傑作。リンパ球がもたらす変化とその謎、どこに到達するのか、終着点が見えないところはSFの醍醐味であろう。視点は少し変化するが、焦点はヴァージルにあてられており読みやすい。しかし二つの事情があり187ページから378ページまでは3つの視点から物語が続いていく。一つの理由はここでは伏せておく事にして、もう一方の理由は謎を追う視点と災厄のもたらす変化を示すためであると思う。変貌した北アメリカ大陸ランドスケープならぬバイオスケープは詩情を醸し出していてすばらしいのだがいかんせん僕の感度がかなり低いせいで少し楽しめなかった。異世界描写は想像力が足らず苦手だ。毛布のようなものに包まれたニューヨークといっても壮大というより嫌悪感のほうが先に出てしまうような人間なので仕方ないか。感度が高い人にとっては後半のほうが楽しめるかもしれない。
 読んでいて思ったけれど人間原理というのは傲慢だよね。考え方は置いておくとしてもべつに人間じゃなくても良いからね。それと終わり方はどうなんだろう、あれをハッピーエンドと思う人間とは友達になれないのは確実だな。