『彼らはSW19からやってきた』 ナイジェル・ウィリアムズ 高儀進訳 早川書房

彼らはSW19からやってきた (リヴァーサイド・プレス)

彼らはSW19からやってきた (リヴァーサイド・プレス)

 抱腹絶倒のコミックノベルと思って読みだしのだけれど、宗教がらみの部分では期待は裏切られなかった。降霊会の場面はスラップスティック満載であり、「尻にキュウリ効果」とか笑わせてくれるぜ。他にも教義はいかがわしくも愚かなものが多く詰め込まれていて、主人公のサイモンのつっこみとあわせて効果二倍の楽しさが味わえる。
 ここまでは期待どおりでおいしゅう頂いたのだけれど、思いもかけぬ収穫だったのは成長小説である点。そっちが主題にあると考えるのがふつうだと思うけれど、まあ想定していなかったのでご寛恕くだされ。サイモンは作中さまざまな困難にぶち当たる、例えば馬鹿でかい一物をほこる男とスカッシュをするなど。父親が急死してしまい、また母親は教会に没頭してしまい、息子の都合よりも教会を優先してしまうという苦しい状況。彼はUFOを信じていて、コンピュータゲームが大好きなごくふつうの人間なんだけれど、教会に取り込まれそうになりつつも踏みとどまって立ち向かうところは良いんじゃないかと思う。世の中を皮肉りつつ、自分は何もできないんじゃないかと思っていた人間が、自分のペニスが役に立つ日は永遠に到来しないとさえ考えていた人間が最後にはセックスが今か今かと出番を待っていると感じるんだから成長って偉大だと思うよ。そのきっかけになったのが二人の「父殺し」と、誰にもいえない秘密を持つに至る、ときたからには正統の成長小説というしかないね、やっぱり。
 極上のコミックノベルと成長小説が味わえる作品。がんばって古本屋で探しましょう。僕は何とか見つけました。