ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』 ハヤカワ文庫SF

まずトロエドンくんがかわいかった。片方だけで行うまばたきであるとか、真夏のアスファルトにはだしで立っているように片方の足だけを地面に交互につけて立っているのなんてラブリーじゃないでしょうか。多分おめめもパッチリしているんだと思いますよ、黄色いけれども。
主人公のブランディと相棒のクリックスは、恐竜絶滅の謎を解くためにハンバーガー型のタイムマシンを使って過去にさかのぼる。タイムマシンあるならもっと有益なことに使えよ、と思われるかもしれないがご安心なされい、説明されております。そして過去で恐竜とついに邂逅することになったのだが、という感じでストーリーは転がっていく。そして多くのことが明らかになっていくのだが、おお、おお、と次々と謎が解けていくので楽しくすらすら読めた。会話も展開も軽快だったからかな。
とにかく楽しい読書体験だった、で終わればお互いにハッピーだったかもしれないけれど、残念ながらそうはいかなかったみたいです。前述のタイムマシンの用途の説明もあるように、細かな説明は行き届いている。そこらへんも読みやすさの理由かもしれないけれども、ひとつ納得できないことがあった。それは過去にさかのぼる調査隊として選ばれたブランディとクリックスの関係である。二人は学生時代からの親友であるが、クリックスは、ブランディの前妻のテスとつきあっている。こんな二人を調査に赴かせてはいかんでしょう。離婚したのが2011年で、過去への時間旅行の時点では2013年なのだから、この背後関係を知っている二人の周りの人間の誰かが気付くと思うのだが。わざわざ助成金が削られているという話が挿入されており、やっと行うことのできた調査というニュアンスも漂っていたので、派遣する人間というのにももっと配慮が行き届いていてもいいんじゃないかと感じた。そんなことほとんど気にしませんよっていう研究所の説明は説明じゃありません。
 とここまで書いていてなんですが、こういう風になる理由というのもちゃんと説明されています。でもこれを認めてしまえばなんでもありになってしまうので少なくとも僕は認めたくありません、人間というより作家が神になっているような気がしてならないので。チン=メイ・ファンに起こった事件のほうも、あんまりいい感じがしないけれど、まあ偶然の範囲で考えてもいい、というかどうしようもない。けれど二人の関係は恣意的、作為的に過ぎるように思う。
 この感想の良いと思ったところと、悪いと思ったところの分量を比較してみると明らかに悪いほうが多いけれども、とにかく楽しい読書体験だったのはほんとうです。快刀乱麻に謎が解けていくのは楽しいもんですね。よくわからない部分ももちろんあるけど。さくさく楽しいソウヤー。