ダン・シモンズ 嶋田洋一訳 『愛死』 角川文庫

 ハイぺリオン四部作で有名なダン・シモンズの中編集。
 この本、おやっと思うことに著者自らあとがきで作品について述べている。解説者や訳者が行うのは翻訳書では普通のことだけれど、珍しいなあと思う。おかげで感想が書きにくいが、何か新味をみつけていこう。
 「バンコクに死す」と「フラッシュバック」には、両方とも日本人が出てくる。前者には固有名が出てないが、後者には本筋にかかわる重要人物として登場する。これらの編が書かれたころは、多分日本はバブル真最中で、金にものをいわして海外進出したころなんじゃないかなと思う。その影響があるのかないのか、わが同胞たちよ、いいようには書かれていない。以前に読んだ本の中で出てきた日本人は「禅銃」に出てくる池松八紘のようなあなた少し日本を誤解していませんでしょうかといった描写や、「スノウ・クラッシュ」のスーツ着用を義務付けられているサラリーマン集団のような几帳面なビジネスマン、とかあんまり悪いようには書かれていなかったような気がする。『高い城の男』もそうだったかな。そんな風に他国の人間には日本人は描かれてきたんだなあと実感したわけだけれど、そうするといまの日本人はどのように描かれているのかが気になる。
 気に入ったのはこの二編だった。「バンコクに死す」は気持ち悪いホラー。頭の中でイメージしたくなくなるような描写があって嫌悪感いっぱいだぜ。「フラッシュバック」は過去が問題になってくるけどノスタルジーを感じさせず、世界の状況と個々の心理が重なっていて、うまい。カットバックも効果的だったように思う。