ポール・J・マコーリイ 嶋田洋一訳 『フェアリイ・ランド』 ハヤカワ文庫SF

 うん、なかなかにおもしろかった。昨年出版されたマコーリイの処女長編『4000億の星の群れ』はさっぱり楽しくなかったし、ぶあつい本なのでびくびくしながら読み始めたのですが、杞憂だったようです。
 なんといっても作中内のイメージが素晴らしかったですね。物語の本筋は、遺伝子ハッカーであるアレックスが共にフェアリイの生みの親となったミレーナを追いかけるというもの。その過程で、マジック・キングダム、ウィザードといった魔術的なイメージと、ドールの改変やフェムボットの描写など、技術的なイメージが複雑に関係しあっています。なかなかおもしろい使い方ですね。どちらかというと物語に魔術的な要素が絡み、舞台やディテールに技術的な要素が絡んでいるように思えます。
 三部構成になっており、それぞれ読みどころがありました。一部はロンドンの街並、二部はマジック・キングダムや貧困地区の描写、三部は…まあ読んでいただけたらわかると思います。
 時折置いてけぼりにされたような感覚を味わったり、登場人物の行動に疑問な部分があるなど欠点もあったりしますが、そういうささいな瑕にうるさく言う作品でもないような気がします。イメージを愛でればいいんじゃないでしょうか。