エリック・マコーマック 増田まもる訳 『隠し部屋を査察して』 東京創元社

 カナダの奇人、エリック・マコーマックの短編集。アイデアは奇想、というよりも変態ですね。僕は変な話が書かれているとそれだけで満足してしまうのですけれど、おかげでとても楽しめました。なんでそんな事を考えるんだろうと呆然としてしまいます。アイデアが秀逸でも料理法が悪ければ生きてこないものですが、その点変に気負っていなくて良いですね。自然体で書かれているせいか、作品全体に流れる雰囲気は淡々、飄々としていてギャップが味を出しています。このような発想で押してくる作品が表題作や「刈り跡」など。これらは嫌でも忘れられないと思いますが(忘れた頃に悪夢で見そうです)それとは別の、アイデンティティーテーマの作品も、変態奇想の影に隠れて目立ちませんが、忘れがたい作品でした。「窓辺のエックハート」、「祭り」などはこちらの部類ですね。「窓辺のエックハート」は、九枚のガラスの窓、警察署のまわりの数マイルにわたる並木通り、鏡など、部分的な断片が隙なく全体に奉仕しており、良くできた短編の見本のような作品です。長編の「パラダイス・モーテル」も読んでみることにします。