ハーラン・エリスン編 伊藤典夫・他訳 『危険なヴィジョン1』 ハヤカワ文庫SF

 先に作品の方から。本書には八編の作品が収録されています。平均点は高いほうで、六編は楽しんで読むことができました。あとの二編は楽しくなかったのですが、これは半分僕の方に問題があるので何とも言えないですね。題材に興味を感じなかっただけですので。
 六編の中で白眉はフィリップ・ホセ・ファーマーの「紫年金の遊蕩者たち」です。他の作品よりも分量が多く、印象に残りやすいという面はあるのですが、それを差し置いても抜群の作品です。このアンソロジーに、タブーを打ち破るという目的があるのですが、この作品は事前にタブーをリストアップして、それを惜しみなく全て盛り込んでいるように思えます。物語のスピードも文体も各エピソードに合わせて緩急自在で、うまいと唸らされます。ところどころにくすっと笑えるエピソードがある点もポイントが高かったですね。
 それで本題です。作品以外に何があるかというと、まえがき、序文、あとがきです。これがおもしろい。アイザック・アシモフのまえがきはその1では10ページで出版当時までのSFの歴史を語ってくれているし、その2はげらげら笑ってしまいました。序文ではハーラン・エリスンの情熱の文章が読めます。また、各作品についても序文とあとがきがついています。仲の良いロバート・シルヴァーバーグに対しての序文と、あまり知らないブライアン・オールディスへの序文との対比がおもしろいですね。なんか物足りなそうな感じが文章からにじみ出ています。「紫年金の遊蕩者たち」をのぞいて考えてみると、作品よりもまえがきなどの方がおもしろかったような気がします。まあでも傲慢で低身長のエリスン編のアンソロジーなのだし、ちょうどいいのかもしれませんね。