『美しい水死人』 ガルシア=マルケスほか 木村榮一ほか訳 福武文庫

 夏の夜長にはラテンアメリカ文学がぴったりだろうと思って、とっつきやすそうなアンソロジーから読んでみることにした。
 ラテンアメリカと一括りにしてあるけれど、「犬が鳴いていないか」のようなリアリズム小説から、「羽根枕」のホラー、「水に浮かんだ家」のような幻想小説まであり、この1冊読むだけでもラテンアメリカ文学の豊饒さがわかる、気がする。また「パウリーナの思い出に」や「山椒魚」なんかは内容もさることながらとても巧いなあと思う。
 そのなかで気に入ったのは、「アランダ司令官の手」と「閉じられたドア」。「アランダ司令官の手」は、前半で博学ぶりを発揮して伏線というか地ならしを行い、後半に想像を働かす、という作品だけれど、前半をふまえて、それじゃあこうなんじゃないかと飛躍させていくところがいとおしい。「閉じられたドア」は1日中寝て過ごすという全てのぐうたらの願いを体現するところがおもしろい。もちろん本人は寝ることが使命だと思っているところもポイント。これからラテンアメリカ文学という高みに上ろうとする人間にとってはあまり難解でもなく、良質なアンソロジーでありました。