『アルゼンチン短篇集』 コルタサル他 内田吉彦訳 国書刊行会

 引き続きラテンアメリカ文学の短篇集を読もうと思って選んだ。バベルの図書館という叢書であり、それもあってかボルヘスが編纂と序文を担当している。その序文と、前に読んだ『美しい水死人』、今読んでいる『遠い女』のあとがきを読んでいると、ポーの影響を受けているというのがよく分かった。そしてひがみから思えるのか、ポーなんて読んでいて当然だなという雰囲気がただよっていたのですこし居心地が悪かった。ポーは私的絶対に読まなければならないリストの上位においておくことにしよう。それでは個々の作品の感想を。
「イスール」 レオポルド・ルゴーネス
 1ページ目から、サルとは何らかの理由で話すことをやめてしまったヒトである、というキャッチーな文があり楽しい。その仮説を証明するための実験が全篇繰り広げられるのだが、ラストもそうだがどうも内容に植民地―被植民地の関係を読み取ってしまうのはルーシャス・シェパードが悪いのだと思う。
「烏賊はおのれの墨を選ぶ」 アドルフォ・ビオイ=カサレス
 よくある題材をあつかった、完全なSF。60年代のSFマガジンに載っていそうな短篇。いやあ、あなたとこんなところで会うとは思いませんでしたよ。ちなみに烏賊は出てこないが、タイトルは好き。
「運命の神様はどじなお方」 アルトゥーロ・カンセーラ/ピラール・デ・ルサレータ
 寓話か風刺を書いた作品だろうけれど、すくいとることができなかった。
「占拠された家」 フリオ・コルタサル
 この短篇集の中で1番の好み。占拠される様はぼかした描写で幻想風味を出しているが、ラスト近くにお金が出てきたりして妙に現実的。政治風刺的な読み方もじつはできるのではないかと思う。占拠されてもまあ楽しく暮らしている兄妹がおもしろい。
駅馬車」 マヌエル・ムヒカ=ライネス
 駅馬車の道中の描写と、カタリーナの過去に行った行為があいまって重苦しさが作品を支配している。幻想的な復讐と、そのあと訪れるうすらさむい景色は印象的な余韻を残す。雰囲気を楽しめばいいかな。
「物」 シルビーナ・オカンポ
 人間生きていれば多くの物を失っていくが、失ったものが戻ってくるとどうなるか?小噺のようで好きだけれど、本気かどうかわからないが練習なら書くなと思う。
「チェスの師匠」 フェデリコ・ペルツァー
 なんじゃそりゃと読み終わって叫ぶ人間が自分以外にもいるはず。『魔法の書』の中にも、どうしようもなくくだらない作品があったけれど、なかなかこの作品も引けを取らない。
「わが身に本当に起こったこと」 マヌエル・ペイロウ
 これもSFと言って良いような気がする。だからかどうにも素朴な印象を受ける。作者名が分からなければハインラインの作品かと思ってしまうかもしれない。
「選ばれし人」 マリア・エステル・バスケス
 あんまり好きじゃない。あの方とかあの方の子どもが出てくる話は好きじゃないのかも。