『遠い女』 フリオ・コルタサル他 木村榮一編 木村榮一/井上義一/入谷芳孝訳 国書刊行会

 ラテンアメリカアンソロジー3冊目。収録作家をみてみると、『美しい水死人』とけっこう重なっている。だからといって同じような作品を書いていないところが短編小説のおもしろいところだと思う。深く吟味していけば共通の素材なりテーマなりを見出すことができるかもしれないが、道半ばで力足らずということにしておこう。
「夕食会」 アルフォンソ・レイエス
 なんかもどかしい。なろほどそういうことかと理解できそう、な気がするけれど多分さっぱり理解できていないだろーなー。10ページで現実に起こった話だとわかるけれど、ストーリーをおっていくと幻想的な作品にしか思えず、ラストでまた現実に戻される、けれどもそのさまが幻想的である。
「流砂より」 オクタビオ・パス
 あまりに頭に入ってこなかった。肌に合わないととことん合わないもんだ。
「チャック・モール」 カルロス・フエンテス
 溺れ死んだ男の手記から作品の大部分が成り立っている。理屈に合わない、不自然なことが起こっているが、手記はごく自然に書かれており、現実だと思わざるをえない。
「分身」 フリオ・ラモン・リベイロ
 分身をあつかうときには分身どうしが出会うときが1番の見せ場だと思う(そのあとどちらかが死ぬのは決定的)。それを分身に関する格言だったか箴言だったかに矛盾する事なく描いていて新鮮。
「遠い女」 「集合バス」 「偏頭痛」 「キルケ」 「天国の門」 フリオ・コルタサル
 コルタサル巧いなあ。「遠い女」の夜に書いた日記を受けて「今のは嘘よ」と書く自意識過剰気味な文や「偏頭痛」のうなされるような文体がかっこよすぎる。「集合バス」は読んでいて終始違和感をクラーラと若い男と共に持ちつづけていたけれど、ラストでクラーラと若い男はどうも違和感を解消してしまったみたいだ。けれども僕の違和感は晴れないので困る。勝手な解釈しか思いつかないから困る。巧くても困る。「キルケ」はおかしいことにはうすうす気づいているのにラブラブパワーに邪魔されて良いように解釈してしまうところがおもしろい。しかし気持ち悪いはなしだ。「天国の門」はなにかおもしろいことがあると「これはカードに記録しておこう」とのたまう好奇心旺盛な観察者であるアルドイ博士のほうが、愛し合っているマウロとセリーナよりも二人の関係をよく理解しているのがおもしろい。
「未来の王について」 アドルフォ・ビオイ=カサレス
 おもしろさを読み取れなかった。あいかわらず題名はよくわからん。
「航海者たち」 マヌエル・ムヒカ=ライネス
 奇想たっぷりで楽しかった。冒険を経て成長しているけれども、その代償との歪みがおもしろかった。ユートピアの思想も入っているかもしれない。