読んでも書かず

 ワールドカップを見ていた影響で、感想をさっぱり書いていない。感想を書く予定もない国書刊行会の世界探偵小説全集を読んでいるせいもあるのだけれど。あと感想を書いてないけれど、ゆっくりとSFマガジンは読み続けています。今1966年六月号を読んでおり、1ケ月に約10冊といったところ。
 目下『シンギュラリティ・スカイ』を読んでいるので、読み終わったら感想を書くつもり。

 ワールドカップ閉幕

 1ヶ月におよぶワールドカップも終了。日本代表はごにょごにょであったよ。課題を把握して、4年後にもっと熱くなれる試合を見せて欲しい。
 優勝すると予想したポルトガル代表は4位。がんばっていたと思うけど、フランスとの試合ではついてなかった。決勝トーナメントに入ってからは、オランダ戦ではコクーの至近距離のボレーがバーに当たったり、イングランド戦ではルーニー君がやんちゃをしてくれたりとどうぞ勝ち上がってくださいという試合が続いていたからこのまま行ってくれると思ったんだけれど、残念そんなに甘くなかった。4年後はさておき、2年後のユーロは期待が持てるだろうから、楽しみに待つことにします。パウレタはまずシュートチャンスが無かったね。
 決勝戦を見ていて思ったこと。国際大会で相手を肉体的にも精神的にも挑発し、レッドカードを出させる奴といえば、今までは2年前のユーロで、トッティとやりあっていたポウルセンをまず思い出していたけれど、今からはマテラッツィだなあ。マテラッツィ、君はサッカー史に名を留めることになりそうだよ。クリスチアーノ・ロナウド君、あんなふうにはならないでおくれよ。

 三崎亜記 『バスジャック』 集英社

 バスという単語で連想するのは嘔吐である、いや嘔吐なんて哲学的な言葉じゃなく、もっと汚らしい言葉のほうがあっている。つまりゲロだ、これがいい。というわけでやり直そう。
 バスという単語で連想するのはゲロである。過去を振り返ってみて人がゲロを吐くのを見たのは、バスに乗っているときだけだ。吐いた人間に聞いてみると、どうやらバス特有の匂いがだめらしい。タクシーに独特の匂いがあるのはわかるんだけれど、バスに匂いなんかあったかなあとその時は首を捻ったものだった。
 匂いがあるかどうかはよくわからないけれど、バスでゲロを吐く人間は多いという、何人もうならすことができる物的証拠というのがある。それはゲロぶくろである。
 座席の背中部分にあんまり役に立ちそうにないのに、どのバスに乗っても設置されている網ポケットのなかに、いつもゲロぶくろはたたずんでいる。楽しい旅行や遠足の時にそれを見ると、なんとも言えない違和感を感じたのを覚えている。
 『バスジャック』に収録されている7篇の物語には、なんとも言えない違和感を喚起させるものが日常にまぎれ込んでいる作品が多い。「2階扉をつけてください」が典型的で、2階扉がどういうものかよくわからないし、工事を行う業者も意味が通じない行動をとっている、と本気で書いているのかもよくわからない作品だ。後半の「先住民」と「渡来人」のくだりは、7篇のなかでもっとも長い「送りの夏」につながる部分があるようで重要な気もするけれど、まあそれはいいや。違和感、楽しませていただきました。

[感想」 ジェフリー・A・ランディス 小野田和子訳 『火星縦断』 ハヤカワ文庫SF

 サバイバルを描くのに必要なものはなんだろうか?色々とありそうだけれど、重要なことは、周囲の環境を的確に細部まで描くこと、だと思う。サバイバルを強いられるということは当然普段の生活環境とは違うため、精確に描いてくれないと何が問題になってくるかも読んでいてつかめなくなってしまう。
 『火星縦断』は、この部分を上手く描けている。作者がNASAの現役研究者であるため、3の部分がとてもおもしろい。
 おもしろいと言っても、実際の火星の状況にはあまり詳しくないので、とてもリアルに描けていると言われても正直よくわからない。でも塵や埃が火星において重要な意味を持っているというのは読んでいてとてもよくわかる。
 塵や埃のような意識しないとあるかないかでさえよくわからないようなものも、環境が変わることによって生死を左右する重要な要因になる。火星上でのサバイバルとは関係ないけれど、宇宙ステーションの生活ではゴミ廃棄にもいろいろ気を配らなければいけないというはなしもでてくる。地球上だと決められた日に出すだけで良いんだけれど。
 こうした、地味な、ほかの作品ならうっちゃってしまいそうなことを地道に書いている作品というのは素晴らしいと思います。

[感想」 ウィル・セルフ 安原和見訳 『元気なぼくらの元気なおもちゃ』 河出書房新社

「尺度」のような作品を期待して読み始めたけれど、ちょっと違っていたなあと思う。でも短篇集としてよくできた作品が収められていて、不満は全くない。他の長篇や短篇集が訳されたら良いなあと思うけど、されないだろうなあ。それでは個々の短編の感想にうつる。
 「リッツホテルよりでっかいクラック」
 麻薬の売人をやって、その後軍隊に入り、除隊して家に戻ってなにをしようかという時に日曜大工をやるというところがおもしろい。軍隊に入って肉体的や精神的に変わったというのは、少し前の文章でわかるのだけれど、人生をまじめに生きるようになったことを示すのに日曜大工ほどわかりやすい言葉はないだろう。麻薬の売人と日曜大工の間にはどれだけの溝があるのだろうか。
 「虫の園」
 あらすじだけを考えるとものすごくシンプルなはなしなんだけど、辿りつくまでの過程が変すぎる。ハエ・ハンティングのところが好み。
 「ヨーロッパに捧げる物語」
 ストレートすぎる風刺小説だと思う。すごくよくわかる。何年に書かれたのかよくわからないけれど、ドイツに頼るしかないヨーロッパ、でもドイツは東西併合の影響のため、効率さが失われているという経済状況を描いているんじゃないかなあ。ハンフリーがなにかがよくわからない、イギリスってあのころ経済で将来の展望良かったかな?
 「やっぱりデイブ」
 精神分析をおちょくっているような気がするけど、まあよくわからない。
 「愛情と共感」
 遺伝子操作があるので、強引にSF認定しよう。これでこの短篇集を『このSFがすごい』のベストSFに投票できる。
 「元気なぼくらの元気なおもちゃ」
 地図帳を見ながら、グラスゴーはロンドンと比べてかなり北にあるんだなあなどと考えつつ読んだ。イギリスといってもイングランドしか意識しないものだ。
 「ボルボ七六〇ターボの設計上の欠陥について」
 あほですね
 「ザ・ノンス・プライズ」
 「リッツホテルよりでっかいクラック」にでてきたダニーとテーベが再登場するのだけれど、全く立場が逆になっているので誤植しているのかと思った。ドラッグへの誘惑の抑制、周到に手を回して販売網を広げていったところなど、そう未来は悪くないと思わせる終わり方だったのに、ドラッグに手をだして、軍隊生活で得た筋肉を失い、よれよれになっているのは落差がとても大きくて驚かされる。後半に、小説講座を受講するようになって、ドラッグをやって転がりつづける一方だった人生にもやっと光が指してきたようだったのに、キャル・デヴェニッシュのような「薬物依存の気がある」という噂を持つ人間に遠回りさせられる皮肉には、涙がちょちょ切れますね。

[感想」 ハニフ・クレイシ他 柴田元幸訳 『イギリス新鋭作家短篇選』 新潮社

 イギリス新鋭作家(といっても刊行された1995年時において)の短篇が5篇収録されているが、とにかくウィル・セルフ「尺度(スケール)」である。
 この短篇を評価できない人とも友達になれると思うけど、好きだという人間とはとても話の合う、良い友達になれそうな気がする。まずこの篇に対する僕の態度がこれ。
 妄想と夢想のスパイラル・コースターといったところだけれど、さすがアル中、薬中だっただけあってぶれぐあいがハンパじゃない。読んでいて笑うしかないエピソードがどんどんどんどん続いていく。ところどころ知性がみなぎっていて、なおいっそうよくわからないものになっている気がするのはどうなのだろう。モデル村に入っていくのと、体重計のエピソードがよかった。体重計を毎日見るたびにこの短篇を思い出しそうだ。
 期待も膨らんだところで、『元気なぼくらの元気なおもちゃ』を読むことにしよう。